安全教育をデジタル化したい。でもVRゴーグルを人数分そろえる予算はない。そう考えている総務や製造部門の方に向けた記事です。明電舎が2026年8月に発表した社内アプリを題材に、専用のVR機材を前提にしない始め方と、社内教材が続かなくなる理由を整理しました。第一種衛生管理者として毎月の安全衛生委員会を運営していた経験から書いています。
結論:機材より先に、続ける仕組みを決める
私が社内教育に関わった経験では、教材を作ること以上に、誰がどう更新し続けるかが課題になりました。
最初の1セットは気合いで作れます。ところが3か月後、誰も差し替えていない。中身を覚えられてしまい、やる意味が薄れていく。私自身が、この形で止めてしまったことがあります。
明電舎が発表したアプリでは、50種類の危険箇所から1回につき5種類がランダムに設定されます。固定された1セットだけを繰り返す構成ではない、ということです。
この考え方の一部なら、写真やイラストと社内のグループウェアを使った補助教材にも取り入れられます。
明電舎の事例を、先に押さえる
2026年8月25日、明電舎が「M-search」という社内アプリを発表しました。仮想の工場を歩き、10分の制限時間で危険箇所を探すものです。全従業員が社有パソコンから利用できる環境を整えています。
同社はVRやメタバースもすでに活用しています。今回は、社有パソコンから利用する学習機会が加わりました。
詳しい内容は、テクノロジーメディア『innovaTopia』に書いた記事をご覧ください。画面に「事故の型」という厚生労働省の分類名が表示されている点など、リリース本文には明記されていない画面上の情報まで確認しています。
この記事では、そこから中小規模の会社が持ち帰れる部分だけを取り出します。
社内教材を続けやすくする3つの工夫
1. 毎日開くものの中に置く
専用機材や専用スペースが必要な教育では、**利用のたびに準備や日程調整が必要になる場合があります。**会議室の予約、機材の準備、人集め。
一方、業務で毎日開くパソコンやグループウェアの中にあれば、すきま時間に触れられます。
どちらが優れているかではなく、性質が違います。濃い体験と、薄い接触。両方あると層が厚くなります。
2. 中身が入れ替わる形にする
固定された問題だけを繰り返すより、複数の題材を用意して組み合わせを変えられる形にしておくと、同じ内容だけを反復することを避けやすくなります。
問題を1セットだけ作るのではなく、複数用意して入れ替える。手間としては、それほど大きくありません。
3. 公的な分類の言葉を使う
厚生労働省は労働災害を「事故の型」という区分で集計しています。墜落・転落、転倒、はさまれ・巻き込まれなど、21の区分があります。
なお「事故の型」は、危険源そのものの分類ではありません。危険要因によって生じる災害の現象を表す言葉です。危険予知訓練でも、危険要因と、それが引き起こす現象を分けて扱います。
教材、ヒヤリハット報告、委員会資料で同じ分類を採用すれば、事例を共通の言葉で整理しやすくなります。
教材と報告書で用語が異なると、報告時に言い換えが必要になる場合があります。共通の分類を使えば、その手間を減らせます。
衛生管理者を務めていたころ、いちばん苦労したのがヒヤリハットの収集でした。全員参加をうたっても、報告用紙は自然には集まりません。だからこそ、報告する側の手間を少しでも減らせる形式にしておくことを重視しています。
数字で見る、いまの労働災害
厚生労働省が2026年5月27日に公表した2025年の確定値です。
| 項目 | 人数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 死亡者数 | 700人 | 46人・6.2%減(過去最少) |
| 休業4日以上の死傷者数 | 135,333人 | 385人・0.3%減 |
死亡者数は過去最少を更新しました。一方、休業4日以上の死傷者数について、厚生労働省は「横ばい」と表現しています。
業種別では、休業4日以上の死傷者数は製造業が26,371人で最多です。事故の型別では転倒が37,195人で最も多く、前年から2.2%増えています。
いずれも2025年中に発生し、2026年4月7日までに報告された災害の集計です。新型コロナウイルス感染症による労災は除かれ、死傷者数に通勤災害は含まれません。
教材を、既存の体制と結びつける
私自身は、社内教材を既存の安全衛生の仕組みと結びつけて運用することを重視しています。
常時50人以上の事業場では、衛生委員会を毎月1回以上開催することが法令上求められます。また、安全委員会の設置義務は業種と規模で異なり、両方の設置が必要な事業場では、安全衛生委員会として統合できます。
安全教育を扱う場合は、事業場の体制に応じて安全委員会や安全衛生委員会など、内容に合った既存の場で教育計画や運用状況を確認する方法があります。個別の教材を毎月委員会で扱うこと自体が、法令上の義務という意味ではありません。
体制と切り離した単発企画では、担当者の異動などをきっかけに継続しにくくなることがあります。
※ 委員会の設置義務や業種の区分は、事業場の状況によって判断が分かれます。自社の区分については、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
今日から始められる形
※ 以下は、日常的な危険予知・安全意識向上のための補助教材の例です。雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育など、法令上必要な安全衛生教育を置き換えるものではありません。
1 過去の災害・ヒヤリハット事例を選ぶか、
社内ルールに従って安全な作業風景を撮影する
2 実地に危険な状態は作らず、
画像やイラスト上で気づいてほしい危険要因を設定する
3 危険要因と、それによって想定される「事故の型」を添える
4 安全衛生担当者等が内容を確認し、
社内で利用が認められた配信チャネルで共有する
5 定期的に別の題材へ差し替える
撮影と掲載のときは、設備情報や機密情報、人物の写り込みにも配慮してください。
担当者、差し替えの頻度、置き場所。この3つを先に決めておくと、続けやすくなります。
まとめ
私自身は、安全教育のデジタル化を考えるとき、機材より先に「誰が、どこで、どう続けるか」を決めることが重要だと考えています。
社員が毎日開く画面はどれか。そこに置ける形は何か。更新は誰がいつやるのか。この順番で考えると、いまある道具で始められることが見えてきます。
デジタルの窓口では、社内向けの資料づくりや、業務のなかでAIをどう使うかのご相談を受けています。第一種衛生管理者として安全衛生委員会の運営と社内教育を担当した経験があり、製造業の社内向けコンテンツについてもご相談いただけます。「何から始めればいいか分からない」という段階からご相談いただけます。ご相談とお見積もりは無料です。

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