AIに契約書を読ませていいのか

8月21日、法務省が企業の法務業務でのAI活用について新しい指針を公表しました。ニュースを見て、自分の会社にも関係があるのかと気になった方がいるかもしれません。結論から書くと、この指針が整理したのはAIサービスを提供する事業者と法律の関係で、会社がAIを使うこと自体のルールを定めた文書ではありません。使う側が気をつけたいことを、あわせて整理します。

今回の指針は、AIサービスを提供する事業者に向けたものです

法務省が公表したのは、AIを使った法務業務の支援サービスの提供と、弁護士法という法律の関係を整理した文書です。

弁護士法には、弁護士の資格を持たない人が、報酬を受け取って他人の法律の問題を仕事として扱うことを禁じる決まりがあります。この決まりに、AIサービスを提供する行為が引っかかるのかどうか。そこが争点でした。

つまり、自社の業務でAIを使う人を直接しばるための文書ではありません。 そうした利用に向けてサービスを提供する側の問題を整理したものです。

社内でAIに契約書を要約させたり、条文の意味を尋ねたりすること自体を禁じる指針ではない。ニュースの見出しだけを見て不安になった方は、まずそこを切り分けてください。

ただし、法律の解釈には個別の事情が関わります。判断に迷う場面があれば、弁護士にご相談ください。

使う側が気をつけたいことは、別のところにあります

弁護士法よりも先に、日々の業務で確認しておきたいことが3つあります。

入力してよい情報かどうかを先に決める

取引先の名前が入った契約書、従業員の個人情報、社外秘の見積書。これらを入力する前に、使っているサービスの利用規約やプライバシーポリシーを確認してください。

見るのは、学習に使われるかどうかだけではありません。入力した情報がどこに保存され、どう使われるのか。そもそも社内のルール上、入れてよい情報なのか。 無料版と有料版で扱いが違う場合もあります。

個人情報保護委員会も、生成AIの利用について注意喚起を出しています。入れてよい情報と、入れてはいけない情報の線引きを先に決めておくと、日々の判断が楽になります。

出力をそのまま信じない

AIは、もっともらしい間違いを返すことがあります。存在しない条文や、古い法律の内容を書いてくることもあります。

国が公表しているAI事業者ガイドラインでも、誤った出力が出るリスクは明示されています。条文の番号や制度の名前が出てきたら、e-Govなどの公的なサイトで原典を確認してください。確認できないものは使わないという決め方でかまいません。

紛争になった後の書面は、AIだけに委ねない

今回の指針では、訴状や和解契約書など、もめごとを前提とした書面を作ることに特化したサービス機能が、弁護士法に抵触し得る側に置かれました。

これは、利用者がAIを補助として使うことを一律に禁じるルールではありません。ただ、紛争の場面は権利や義務への影響が大きいため、AIだけで完結させず、専門家の確認を受けるのが安全です。

一方で、社内の調べもの、書類の作成や確認、社内調査の支援などは、条件を満たせば問題になりにくいと整理されています。

電子契約を使っている場合の影響

電子署名や契約締結の機能だけを使っている場合、今回の指針の直接の影響は限定的です。

電子契約では、電子文書が本人の意思に基づいて作成されたことをどう確認するかなど、電子署名法上の論点が長く議論されてきました。他人の法律の問題を扱ってよいかという今回の弁護士法の論点とは、軸が違います。

関係してくるのは、電子契約サービスの提供事業者が、AIによる契約内容の分析まで提供する場合です。

リスクのある条文をAIが指摘する。そうした機能まで含むサービスなら、今回の指針との関係が出てきます。サービスを選ぶときは、署名だけの機能なのか、AIによる確認まで含むのかを見てみてください。

今回の線引きは、社内のAIルールを考えるヒントにもなります

ここからは指針そのものの説明ではなく、こちらの実務上の読みです。

安全側に並んだのは、調べもの、書類の作成、社内での確認といった仕事でした。慎重な扱いを求められたのは、対立する相手がいて、外に出ていく文書です。

法務省が引いたのはあくまで弁護士法上の線ですが、社内でAIの使い方を決めるときの目安としても使えます。 社内で完結する下ごしらえは任せやすく、相手のある場面で外に出るものは人が最後まで確認する。見積書でも提案書でも、同じ考え方ができます。

「AIをどこまで使っていいのか分からない」というご相談をよくいただきます。まずはこの線から考えてみると、判断しやすくなります。

まとめ

  • 今回の指針は、AIサービスを提供する事業者と弁護士法の関係を整理した文書です
  • 企業がAIを使うこと自体を直接しばるものではありません
  • 使う側が気をつけたいのは、入力する情報、出力の確認、そして専門家に渡す判断です
  • 電子署名や契約締結の機能そのものへの直接の影響は限定的で、AIによる分析機能が加わる場合に関係してきます

デジタルの窓口では、AIの導入と業務効率化のご相談を承っています。公的機関・団体が主催するAI活用セミナーの講師も、これまでに10回以上務めてきました。何から始めればいいか分からない、という段階からご相談いただけます。

ご相談とお見積もりは無料です。

今回の指針の詳しい内容については、テクノロジーメディア『innovaTopia』に解説記事を書いています。
【解説】法務省の法務AI新指針|Winny事件が支える新たな線引き

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この記事を書いた人

デジタルとリアルの交差点をつくる

合同会社デジタルの窓口 代表
山本 達也(ヤマタツ)

兵庫県姫路市を拠点に、WebディレクションやAI活用支援をはじめ、多岐にわたって活動しています。IT専門メディアのテックライター・AIナビゲーターとしては、生成AIやエージェンティックAI、サイバーセキュリティ、宇宙開発といった最先端テクノロジー領域を中心に、これまでに累計約4,500本の記事を執筆してきました。

ウェブ解析士やデジタル推進委員としてのデータに基づく専門的な視点を持つ一方で、ハイブリッド型ビジネス交流会「クロストーク」の代表も務めています。オンラインの最先端テクノロジーだけでなく、オフラインの「人と人との繋がり」や地域のコミュニティを大切にし、デジタルとリアルの両面から起業家や企業の皆様に伴走するスタイルを得意としています。

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